MX Masterシリーズの真価は、ホイールでも解像度でもなくジェスチャーボタンにあります。親指でボタンを押し込み、上下左右へ軽くスワイプするだけで、アプリ切替やウィンドウ整理が一瞬。キーボードへ手を移動する回数が激減し、集中が切れません。本稿では、MX Master 3Sを中心に「親指起点」で組むワークフロー設計を、実例と手順付きで解説します。
ジェスチャーボタンの基礎知識
ジェスチャーボタンとは
マウス左側、親指のサムレスト奥にある小さなボタンがジェスチャーボタンです。Logi Options+で設定すると、以下の5入力を割り当てられます。
- 押し込み単体
- 押し込み+上/下/左/右
1つの指で5機能。これが”親指を第二のショートカットキー化”する仕組みです。
なぜ”親指起点”が速いのか
ホームポジションが動かない
マウス操作中でも親指だけは常に待機状態。移動距離が最小限で済みます。
目線が止まる
カーソルから視線を外さず切り替えでき、思考が途切れにくくなります。
役割分担が明確
右手=切替・表示、左手=入力という分業が自然に成立します。
設計の3つの原則
これだけ守れば迷いません。
原則1:一方向=一目的に固定する
例)左=コミュニケーション、右=参照、上=作業復帰、下=検索やブラウズ。
原則2:重要機能を押しやすい方向へ
親指の可動域は人それぞれ。上が辛ければ、最優先機能は左右に配置しましょう。
原則3:”全体プロファイル”と”アプリ別プロファイル”を併用
普段は共通割り当て、特定アプリでは上書きして最適化します。
基本設定:全体プロファイルの構築
推奨する5方向の割り当て例
まず作るべき”全体プロファイル”の例を示します。
- 押し込み単体:デスクトップ表示(全ウィンドウ一掃で思考をリセット)
- 上:直前の作業アプリへ戻る(復帰を最短化)
- 下:ブラウザへ切替(調べ物や社内Wiki)
- 左:Slack/Teamsを前面(コミュニケーション確認)
- 右:エクスプローラー/Finderを開く(資料やDLに即アクセス)
この配列は、左=人/右=モノ、上=作業復帰/下=情報取得という意味づけで覚えやすく、数日で自動化します。
Logi Options+での設定手順
- Logi Options+を開き、対象マウスを選択
- [ボタン]→ジェスチャーボタンを選ぶ
- [ジェスチャー]のドロップダウンリストから[カスタマイズ]を選択するとクリック/上下左右に機能を割り当てられるようになる
- [アプリ固有の設定を追加]で各アプリに上書き割り当て
- 動作が重なるショートカットはOS側の挙動も確認(仮想デスクトップやミッションコントロール等)
- 1週間使って微調整→安定したらエクスポートしてバックアップ
アプリ別プロファイルの最適化
全体プロファイルが定着したら、よく使うアプリごとに専用設定を追加します。
ブラウザ(Chrome/Edge)
- 押し込み:タブ検索(アドレスバーへフォーカス)
- 上:前のタブ/下:次のタブ
- 左:戻る/右:進む
タブ移動とページ履歴が親指だけで完結します。
表計算(Excel/スプレッドシート)
- 押し込み:絶対参照切替 or セル移動ダイアログ
- 上:シート前へ/下:次へ
- 左:列見出しへ移動/右:最終列へ
大きな表の移動が劇的に速くなります。
デザインツール(Figma)
- 押し込み:ズームトグル
- 上:グループ化/下:解除
- 左:整列左/右:整列中央(またはコンポーネント化)
レイヤー操作を頻繁に行う作業で威力を発揮します。
動画編集(Premiere/DaVinci)
- 押し込み:再生/停止
- 上:再生ヘッドを前へ大ジャンプ/下:後ろへ
- 左:前の編集点/右:次の編集点
タイムライン上の移動が直感的になります。
コーディング(VS Code)
- 押し込み:コマンドパレット
- 上:定義へ移動/下:参照へ
- 左:前のタブ/右:次のタブ
コードジャンプとファイル切替がシームレスに。
応用テクニック
Flowによるマルチデバイス運用のコツ
複数PCをLogi Flowでつないでいるなら、方向と物理配置を一致させます。
- 左のPCへカーソルを移す操作=ジェスチャー左
- 右のPCへ移す操作=ジェスチャー右
これだけで”画面の向き=指の向き”となり、混乱が消えます。クリップボード共有を多用する人は、押し込みに「履歴を開く」を割り当てると受け渡しがスムーズです。
トラブルシューティング
誤爆する/硬い
押し込み時間をやや長めに。親指の当て方を”面”でなく”点”に変えてみてください。
方向認識がズレる
マウスを体の正面に置き直し、腕の角度を調整します。
押し込みが届きにくい
マウスパッド位置を2~3cm手前へ。親指の屈曲が減り快適になります。
反応が遅い
不要な常駐アプリや省電力設定を見直し、Bluetoothならレシーバー運用も検討しましょう。
習慣化のための実践プラン
1週間で定着させる練習法
Day1–2:全体プロファイルのみ
方向の意味付けを体に覚えさせます。
Day3–5:アプリ別プロファイルを1つ導入
主要アプリを1つ選び、専用設定を追加します。
Day6–7:無駄のない5枠へ最適化
使っていない方向を別機能に置換します。
タイマーを回して30分スプリントを3本。切替回数や手の移動距離が目に見えて減ります。
まとめ
ジェスチャーボタンは”親指で操る5つのレーン”です。
方向に意味を与え、重要機能を押しやすい方向へ、全体+アプリ別で上書き。この3点を守れば、キーボードに触る回数が減り、集中が保たれます。
まずは本稿で紹介した全体プロファイルを真似して、明日から1週間運用してみてください。たぶん、もう普通のマウスには戻れません。


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